甘い毒薬 20081114




ほの暗い部屋に満ちた空気は、毒みたいに危機的で、やけるほど甘い。
吸い込むと、体がじんじん疼いた。

2人分の息遣いの合間からこぼれる敦盛の声は、
殆ど押し殺されてうめき声に近い。

唇を噛み締める敦盛の頬に、髪が張り付く。
それに手を伸ばしたら、宙を泳いでいた目が、意思を取り戻したように、
こちらに向いて、睨まれる。

「怒ってんの?」
「別に・・っ」

口を開いた隙をついて、動きを強くしたら、
一瞬、声があがって、敦盛が慌てて腕で口を塞いだ。

「やめなよ、それ」

口元を覆う、自分より白い腕に触れても、それは頑なに動かない。

「苦しいだろ、ねぇ」
「嫌だ」

腕の隙間から一言だけ返された言葉に、思わず笑う。

「かわいい」

俺の言葉に、敦盛の綺麗な顔は、これ以上ない位嫌そうに歪んだ。
予測どおりだけど・・

「そこまで、絶望的な顔するなよ」
「ヒノエ、が、気味の悪い事を言うか・・」

今度は、強くした動きを一時でやめてやらない。

息に変えきれない声をもらしながら、敦盛はさっきよりきつい顔で俺を睨む。
それでも、頼るように俺にしがみついた。

敦盛の指が肌に食い込んで、引っかかれる。
びりびりした痛みが、他の感覚と混ざり合って、
一度に押し寄せて、甘いとさえ、思える気がした・・
のは、つかの間で。

背中に、腕に、闇雲に場所を変えて爪をたてる敦盛の行動が、
無意識でない事にさすがに気づいた。

「痛!ちょっ・・敦盛!」

顔を歪めて動きを少し緩めた俺を、敦盛は、ふやけたような瞳のまま見つめて、
汗ばんだ顔に、毒気のある笑顔を浮かべた。

目を奪われる。

熱が上がって、鳥肌がたった。

「お前・・」

かわいい。今度は口には出さない。

思ってしまった事がまともじゃ無いような気がして、
振り払うように、俺は続きの行為に専念した。



「腹、減ってない?」
「減っていない」

きちんと着込まれた服に似合わず、敦盛は髪を無造作に後ろで束ねて、
俺の質問にそっけなく返事をした。

「お茶でも飲む?」
「飲まない」

壁に無気力にもたれかかった後姿では、表情は読み取れない。
見なくても、解るけど。

「何怒ってんの」
「別に、怒っていない」
「嘘、怒ってんじゃん」

ようやく少しこちらに顔をむけた敦盛は、不機嫌そうだけど、
思ったよりも、本当に怒っていないようにみえた。

「疲れただけだ」

一言いって、再び背をむけた。

「・・・なぁ、敦盛」

近くに寄って、座り込んだ敦盛の傍にしゃがみこんで、
そっと顔を覗き込んで、目を、見つめる。

「ほんとに嫌だった?」
「嫌に決まっている」

ためらいのない返答に、俺は顔をしかめた。

「ひでぇ。即答した」
「当たり前だ。殺し文句のつもりか」
「なんだ、ばれてた?」
「他の相手はどうなのか知らないが、私に効くわけがないだろう」

もたれていた身を、ゆっくり起こして、敦盛は立ち上がる。
足元がおぼつかないようにふらついた。

「危な! おい、もうちょっと休んでろって」
「誰のせいだと思っている」

差し出した手に、意外と素直に敦盛がつかまる。
「ほら、座れよ」
俺の腕を掴んで、再び腰を下ろして、
ため息をついた敦盛の横顔が、ふと色っぽくみえた。

「・・すまない」

こんな時でも、礼を言う様が、こいつらしい。

「お前さ、何で」

疲れた顔でこちらに目をやる敦盛に、
まっすぐ目線を送る。

「嫌なら本気で抵抗しなかった訳?」

技や戦術を考える点では、負けはしないけど。
純粋な力は、きっと、こいつの方が上だ。
本気で抵抗されれば敵わない。


「力の調節を間違える事がある」

うつむきがちに、言いにくそうに話す敦盛に、
少し罪悪感が沸いた。話したくないのだろうか。

「だから、人には、あまり強い力は・・」
「うん、解った」

無意識につい、敦盛の頭を撫ぜていた。

気づいてから怒られるかと思ったけれど、
意外と振りほどかれる事は無かった。

「嫌だったのは本当だ」

また、恨み言かと思って苦笑いをうかべた、でも

「けれど、君を傷つけるよりはいい」

真面目な顔で、あまりにさらりと、そう言った敦盛から目が離せず、
しばらく見とれるように、顔を見つめる。

いぶかしげに首をかしげた敦盛を、そのまま、片手で引き寄せて胸にぶつけた。

「言っておくが、二度目は容赦しない」

何を警戒しているのか、威嚇するように腕の中で、敦盛が低くつぶやいた。




ものすごく可愛げない受けキャラになってしまったBL微エロ初挑戦。

 
 
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