不本意な熱  20090331



本当の最初の最初は冗談だった。

けれどあまりに俺の言う事を真っ直ぐに、敦盛が受け止めて、
一生懸命に顔をしかめるものだから。

気づいたら、付け入る隙を敦盛の中に捜していた。

真面目なやつに限って、隙間が出来れば崩すのはカンタンで、
敦盛が純粋であればあるほど、普段気にも留めない自分のずるさが浮き上がって、
少し罪悪感を感じたけれど、それでも、俺は敦盛に触れたかった。

抵抗の言葉を口にするのをやめて、うつむいて目を伏せた敦盛が、
異様に色っぽくて、そのせいで俺の思考回路は少し麻痺していたのだろうか。


敦盛は、真面目で純粋で、そして意外と、
負けず嫌いな所があるって事くらい、解ってたはずなのに。


熱の集まりかけた体が、思わぬ展開に、水を注されて温度を下げた。

干した草の匂いが漂う。枯れて空気を含んだ藁にいささか勢いよく倒されて、
体への衝撃は思ったよりは無かったけれど、そんなことよりも、

心が現状を把握出来ずに、自分を何食わぬ顔で見下ろす敦盛と見つめあう。


「・・・え、ちょっと、敦盛」
「どうかしたのか」
「どうかしたも何も、コレ」

思わず、身を引き剥がすように敦盛の腕を押して、俺は笑った。

「おかしくない?」

どうして俺が仰向けにねそべって。
敦盛が覆いかぶさっているのか、さっぱり解らない。
いや、本当は解るけど解りたくない。

「おかしいとは思わない」
「おかしいって!! うゎ・・ちょっと」

鎖骨のあたりをなぞりながら服の中に入ろうとする指に、
身を引きながらもぞくりとした。

「な、交代しよう」
「やっぱり、君は嫌がると思った」
「解っててやってんのかよ!?」
「わ、私も・・・」

気恥ずかしそうな目で、敦盛は視線をぐっときつくした。

「私だって嫌だ」

睨む敦盛の顔は、少し赤い。その様子は押し倒したいくらい可愛いのに、
今押し倒されているのは紛れも無く自分の方。

「俺の方が身長高いし!」
「私のほうが年上だ」
「それ、関係ねぇじゃん」
「身長だって、関係ない」

不意打ちで首筋を吸われて、思わず身を固くする。

「何もかも、君の言う通りにはしない」
「ちょ・・っと、待・・」

薄い皮膚に、ゆるく敦盛の舌が走って声が上ずった。
背筋がぞくぞくする。拒絶の反応だ。そう思いたい、けれど、

体がやけに熱くて。

服の中をすべる感触が、敦盛によるものだと、
そう思うだけで、おかしくなりそうなのに。

胸を撫でる手が敏感な部分をとらえて、
思わず喉をついたヘンな声を飲み込んだ。

「待てって! おまえいい加減・・」

つい硬く閉じていた目を開けて、敦盛を睨みつけた、けれど、
俺の怒りを受け入れて溶かすように、敦盛が、頬を緩める。

その、ほのかな笑顔に、ぞっとした。
ひどく艶っぽくみえる敦盛の目から、怖いのに目を逸らせない。

「何、その顔」
「その、顔?」

敦盛が、きょとんといつもの顔で首をかしげたけれど、
そんな様子さえ、この状況で見ると、アンバランスさに心臓が騒いだ。

「お前、おかしな顔してた」

一瞬、俺を見つめて、敦盛がさっきよりもくっきり、どこか、
意地の悪さを含ませたような顔で笑う。

「ちょ・・マジでお前変」
「ヒノエ、君が」
強さを増した敦盛の手に、再び目を硬く瞑って息を止めて、
無意識に敦盛の腕にしがみついた。

「君が、おかしな顔をするからだ」
「・・・は!?」
「ほら、今もしている」

耳に、唇が触れるほど近くで、敦盛が呟いた。
羞恥心で思い切り敦盛を突き飛ばしたい衝動にかられながらも、
かすめたしっとりした感触と息に、体が強張って、
頭とは裏腹に、敦盛の腕を掴む力が、更に強くなる。

やばい。

抗議の言葉さえ、声にすれば、出したくも無い音に変わってしまいそうで。
敦盛から与えられる感覚は危機感と同じくらい、妙な期待感を伴って、

何もかも放り出して、流れに身を任せてしまいたい衝動に、
意識を預けてしまう、その少し前に、

敦盛が再び笑った気がした。




体に残る重苦しい余韻と、心に残る軽い後悔と羞恥に、
俺は顔をしかめてため息をついた。

静かに、隣で様子を伺われる気配を感じたけれど、
気づかないフリでそっぽを向いたまんま、髪をかきあげた。
一体どんな顔をして、敦盛を見れば良いのかわからない。

「あ、あの・・ヒノエ」
「・・なに」

ひどく控えめな、小さな敦盛の声に答えた自分の声は、
敦盛程ではないにしろ、小さくて勢いがない。

「大丈夫か?」

心底心配そうな声色に、嫌味を言う気もうせた。

ちらりと目を向けると、俺よりもよっぽどつらそうに、
顔を曇らせて敦盛が俺を見つめる。

あの後に、その顔はないだろう。

「大丈夫だよ」

何か言いたそうに、敦盛はまだ俺から目を逸らさない。
珍しい敦盛の真っ直ぐな目線がやけに可愛くみえて、
手を伸ばしたくなったけれど、先刻の記憶がふと蘇って、
なんとなく、そうすることを躊躇ってしまった。

「・・・すまなかった」
「謝られても、どーすりゃいいかわかんねーんだけど」
「そ、そうなのか?」

敦盛の困り果てた顔に、もう一度ため息をついて、
今度は躊躇わずに手を伸ばして、強めに抱きしめた。
驚いたように揺れた背中を軽く叩いて、髪の毛に口付ける。

「なっ・・ヒノエ、なにを」
「あれじゃあ、ちっとも貰った気がしないね」

驚き顔の敦盛の頬を撫ぜたら、少し、赤くなった。


「今度はちゃんと貰うよ」


生まれた日に贈り物をする、異世界のならわしを、俺に持ちかけたのは敦盛。
その贈り物として、俺がねだったものは、手に入れたと思った途端に、
まるで別のものになったように色を変えた。

再び色が変わってしまわないように、呪いのように唇を軽く重ね合わせる。

「やりなおし」

にやりと笑って俺が囁いた言葉に、敦盛の安定しない目が、落ち着きを取り戻す。
その空気に、危険を感じるように心が騒ぐ。


「おい・・!!」

のしかかられそうになって、腕をついてその重力に逆らう。
驚いたように目を丸くしてから、敦盛は困惑した顔になる。


「なんでお前そーなんの!? 貰うっつってんじゃん!」
「え・・? その、た、足らなかったという、意味では・・」
「違う! バカ!」


やばい位置関係が築かれる前に、それを壊すように身を起して、敦盛を睨んだものの、
ふと、体があの感覚を思い出す。


不本意に、集まった熱をふりきるように、もう一度、
今度はちょっと乱暴に、激しく敦盛の唇を奪った。


ヒノエハッピーバースディ(祝う気ないだろ)
女の子が大好きなヒノエの誕生日にほも小説は無いよね、
しかし問題なのは、ほもというだけではないだろうっていう、
ヒノエの可哀想っぷりです。私は嫌そうな顔してるヒノエが大好きです。

 
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